覚書(6)活動C:小さな林業

1. 端緒

 1年目の5月末にちょうどわたしの住む集落で放置竹林の整備事業があり、竹林を皆伐していたので、手伝わせてもらうことにした。わたしは刈り払い機で畑や田んぼの畦の草刈りをしたことがあるくらいで、チェンソーは触ったことがなく、林業についても危険で、力のいる仕事だというくらいの印象しかなかった。そして林業はしたくないと考えていた。
 しかし、手伝いをさせてもらって、林業も悪くないとおもった。とはいえ、この段階ではチェンソーと刈り払い機の安全講習を受講していなかったため、これらの機械を使用することはなく、ナタで伐倒木の枝払いをしたり、それらを一箇所にまとめるような仕事をしただけだったが。林業へ関心が芽生えた大きな要因は、このとき受け入れてくれた林業事業体の親方が非常に親切な方だったことにある。

農家と林家

 このときはまだ自分で本格的に林業的な営みに取り組むことになるとは考えていなかったが、中山間地に住む以上は自分で周辺の森林の整備をするために、チェンソーを使って自分で木を切る技術を身につける必要があることはわかった。
 それは、手伝いのときに、集落の方が来て、竹林伐採のついでに田んぼの脇に育った一本の広葉樹を伐ってほしいと頼みに来たときに強く感じた。中山間地でも林業と農業は分化していて、山の集落でも木を伐ることができるひとは少ないことを知った。しかし田んぼに日陰をつくる木があっても自分で伐れないで誰かに頼まなければならないという状況は農家をする上で非常に不便だと感じたのだ。

 そういえば、わたしの林業に関する唯一の印象は、引っ越してくる前に観た『ウッジョブ』という映画のもので、それを観たときも、農業と林業の分化の様子はわたしの気がかりだった。完全な都会っ子から、携帯の電波も繋がらない山奥の集落で立派な林業従事者になった主人公が、山で迷子になったとき、あるいは、村の祭りで事故が生じたときに、主人公が勤めている林業会社の仲間たちは大騒ぎしていた一方で、農業に従事している他の村人たちは何事だとざわつきはしたが、他人事のように眺めるだけだった。
 今、観たときのメモを掘り出したら、「林業に焦点をあてる。すると農業、その他がおざなりに。これははけして村の生活そのものではない。つまり林業を中心に構成したために、そのほかを捨象した世界しか描かれていない。あるいは、現実にも、林業と農業は分断してしまっているだろうか。」と疑問が呈してあった。このときのわたしに答えるならば、少なくとも金沢市では、ほとんどの中山間地で農業と林業は分業していて、映画の描き方の方は悲しくも正確だと答えるしかできない。

2. 小さな林業を知る

自伐型林業

 夏に、能登の有機稲作農家を訪ねた際、自伐型林業というものを知った。その方は冬の間は道づけの必要のないなだらかな広葉樹林から薪材を伐り出していて、小規模でも伐採ができることを知った。

炭焼き

 埼玉にいたころから、クヌギは椎茸を植菌するホダ木にしたり、落ち葉を堆肥にするために集めたりしていて、好きな木だった。
 この辺りではクヌギは自生していなくて、ほとんどがコナラで、標高のあるところではミズナラが混じるということを知った。これらのナラ類もクヌギ同様に薪や炭、ホダ木の生産に役立つということも知り、関心は深まっていった。
 薪づくりや炭焼きを生業としている人たちから、小規模の伐採の実践について学びたいと考えた。
 1年目の冬に、能登の炭焼きグループにつながることができて、炭焼きの研修に行った。

炭焼き窯を訪ねた際の記事はこちら

薪づくり

 内川の薪生産者のもとで作業を手伝いながら学んだ。

 

3.初年の経験を経て

内川の森林の課題

 わたしはよくわかっていなかったけれど、林業は下火で、森林は荒廃するしかなくて、そして荒廃が何やら地域に良からぬ影響を及ぼしていることはうっすらと、知識、あるいは聞きかじりの知識もどきによって知ったつもりにはなっていた。
 ただこれらのような、林業に携わっていなくても、山に住んでいなくても言えることではなくて、わたしはこうして山の中で生活していて確かに感じるものがあった。

 中山間地の森林における一番の問題は、集落の人たちが集落の周りの森林に手をかけることができないことにあった。これは、集落の人たちに対して、自分たちのものなのだから自分たちで森林管理をすべきであると非難するのではもちろんなくて、そうできない状況にあることが課題だと言いたいのだ。

 なぜだろうか。森林に手をかけても利益がないからだった。

林業は生業にならない

 たけのこ料理店を営んでいた方が小屋の裏の日陰にシイタケのホダ木を並べていて、わたしに分けてくれたことがあった。そのときに言っていた。

 「嫌なもんだね。たけのこ料理に必要だったときはあれほど熱心に世話をしていたのに、料理屋を辞めた今ではほとんど放置してしまっている。儲かるときだけなんだな、一生懸命になるのは。」

 中山間地の条件の厳しい場所で生きてきた人の言葉はいつも重い。そして正しい。
 山に手をかけられない人も同様で、ただでさえ山の集落の農業では、何を育てるにしても、平野では不要な仕事が多くて忙しない。どこもかしこも緑の成長は旺盛で、集落や田畑の周辺だけでも草刈りしてもしきれない。ましてや森林に手をかける暇なんてあるはずがなかった。

 だから、森林の資源を活用した生業を見つければいいのだと思った。

 このように簡単にしか考えられないわたしでも、森林に関わる生業を見つけることが簡単でないことはわかっていた。

 1年学んだだけでは結局、林業の分野でわたしに何かできるか、どうかわからなかった。しかし、山には非常に強く惹かれた。何故かといえば、朝起きて家を出れば、どこを見ても山が広がっているのだ。そして家の中にいても窓からも緑がのぞいていて、テレビのないわたしたちの家では木の葉擦れが唯一の音楽であった。
 そしてわたしは名も知らぬ木々に満ちた山々がこれほど日々新たに美しくなっていくことを内川に来るまで知らなかった。

内川の森林を竹林、杉林、広葉樹林に分けたとき、それぞれ次のような課題があった。

  • 竹林 :たけのこ農家の減少 → 放置竹林の増加
  • 杉林 :伐採適期を迎えた杉の伐採の先延ばし → 森林の高齢化
  • 広葉樹林 :利用されないまま放置 → 森林荒廃、立木の大径化

 課題は3つあったが、「地域住民に利用されなくなったから」という同根の原因があった。だから森林資源を活用することが地域の環境改善につながる唯一の道だと考えた。

 竹林は、たけのこご飯の使用するたけのこを生産するために管理するようになったから、杉林か広葉樹林を活用することを考えようと思った。より林業や森林について学ぶために2年目の春から林業大学校に入った。

4. 学ぶ

林業大学校

 林業大学校では、実践だけでなく、林業に関わる幅広い内容の講義や視察も非常にためになった。金沢市内の丸太の市場や製材所の視察で山から伐りだされた杉が材として使われるまでの流れを知れたし、林業と獣の関係は、田畑の獣害対策の視点からも勉強になった。本当に、SDGsの講義以外、全ての研修が充実したものだった。唯一残念だったものは、講師が講師の質に達していなかったせいであって、テーマが不要なのではないことは言うまでもない。

見通し

 協力隊2年目の秋ころには、わたしが目指すところがある程度組み上がっていた。今見返すと細かい箇所に修正が必要と感じるが概ね、全体的な見立てに変わりはないから、Google Driveに共有しておく

杉の小規模な伐採に向けて

 素材生産のための小規模伐採を試みるにあたって、需要が少なく、明確な販路が見い出せていない現状の広葉樹材に挑戦するのは無謀と判断し、安価だが安定した需要があり、市場も広い杉に焦点を絞ることに決めた。
 そして、福井県で小規模な伐採に取り組んでいる方を視察した。次年度に道づけの研修を開催することになった。

5. 伐採する

道づけ研修

 金沢市森林再生課の協力を得て、住吉町の杉林で道づけ研修を開催してもらい、参加した。

 そのときの様子は動画にまとめられているので貼っておく。

伐採と搬出

 住吉町の杉林での道づけ研修後、せっかく道をつけたから、ついに秋くらいを目処に伐採・搬出をしようと考えた。しかしだらだらしていたら雪が来て、雪解けを待つことになった。
 3月の末、協力隊退任間際に、林業大学校の指導員や山主などに助言をもらいながら、また、作業を林業大学校の同期に手伝ってもらいながら、小規模な伐採と搬出を試みることができた。
 漠然と歩んできたが、最後にいい具合に一つの実際につながってよかった。わたしの自力によるものではなくて、幸運の賜物だった。理解のある山主に先祖が育てた木を伐らせてもらったこと、金沢市の支援を得られたこと、林業大学校の指導員や山主などからの助言を得ながら計画できたこと、また、作業を林業大学校の同期に手伝ってもらったこと、たくさんの方々の協力のおかげで、わたしの自力だけでは到底実行できなかったことが実現できた。

 住吉町の個人所有の60年生の杉造林地から、混み合っている箇所の大径木を択伐した。伐採した材は伐採地から道路まで林内作業車で搬出し、3tクレーン車に積みかえて、石川県森林組合連合会の木材共販所へ出荷した。
 伐採、造材、搬出、いずれの作業もはじめの頃は慣れない仕事で手間取ったが、最後には、効率的な作業方法がわかり、短い時間で作業を行うことができるようになった。

伐採
 3月中旬に、原則2人以上で作業し、安全を期して、すべてチルホールで伐倒方向へ引っ張りながら、クサビを使用して伐採し、枝払い後、4mに玉切りした。計3人役で10本の杉を伐倒、造材した。

搬出
 3月27日~29日の3日間で行った。伐採地から道路までの搬出で使用した林内作業車と、木材共販所までの出荷に使用した3tクレーン車は、それぞれ有償でリースした。計6人役で4m材を28本、計約10 m3出荷した。

 結局、計9人役10m3出荷することができた。

競り
 全て値がつけられた。ありがたい。それだけいい木を切らせてもらったのだ、ということに気がついた。

6. これからのこと

 搬出してみて、単価の高くない低品質の材を出荷することは非常に効率が悪いと気づいた。とはいえ、単価の高い材だけを出荷して、安い材は山に放っておくのでは、小規模施業の意味がないため、市場へ出荷しても安い材の活用法を考案する必要があった。

 現在のところ(1)内川の薪生産者へ出荷、(2)丸太の形を生かしてキャンプ向けのスウェーデントーチに加工、(3)内川の家具職人にバンドソーを借りて製材してみる、(4)製材所への直接出荷を提案、などの計画がある。
 また、内川の家具職人と共同で、広葉樹を伐採から製材、乾燥、そして家具制作までの一連の流れを自分たちで管理して、山の木から家具までつくってみようという話がある。これを一つの受注伐採の形として捉えて、試みていく。

7. 試したものさまざま

 以上のような杉の伐採の試みるまでが、わたしの林業方面での活動の本筋だったが、この蛇行する流れには無数の支流があった。

 興味があるさまざまなものを試みた。
 山がほかの山とどこまでもつながっているように、わたしの試みた森林の資源を使ったさまざまなあそびも、互いにどこまでもつながっていて、このまま小さな林業を続けていけば、いつかこれらの遊びにもまた取り組めるようになるだろうと思っている。

(1)さまざまな木々

 広葉樹は姿かたちの違いに劣らず、その木材についても、見た目も性質も多様で、それゆえに、昔から人々は樹種ごとに適した用途に使用していた。
 例えば、イチョウは水に強く、抗菌性を持っていて、柔らかくて刃あたりが優しいため、まな板の最優良材だったし、大工さん曰く今でも料亭のカウンターなどには使用されている、らしい。わたしはそのような店を知らない。ただイチョウのまな板のよさは知っている。

 サンショウも抗菌性があり、緻密で硬く、何より実のあの独特の風味を材もまた持っていて、今でもすりこぎとして目にすることが多い。山で下草刈りをしているときに、刈り払った灌木から香気が漂ってくるものといえばサンショウと、クロモジである。若い幹や枝の緑に黒い虎斑が刻まれている、この森林の日陰のどこにでも育っている木の葉と枝の爽やかな香りは揮発性が高く、乾燥させるうちに抜けていってしまうのは残念だ。高級楊枝の材として知られているが、この心地よい香りのする油分は、また水を弾くためにかんじきの材としても重宝される。

 わたしの実家のあたりでドドメ(おそらく土留めの意)と呼んでいたクワは、口を甘く紫に染める実も、蚕の餌となる葉も人間にとって有用だったかもしれないが、わたしはクワの材の渋い色合いに魅了された。だから、おそらく鳥が種を運んできて、庭や山に生えたクワを刈らずにおいてある。材をとれるにはどれほどの時間がかかるか知らない。

 この辺でイツキとかイッキとかいう名で呼ばれているヤマボウシは、初夏の森林を彩る白い手裏剣型の花の美しさも、秋につけるちょっと南国果実を思わせる甘くて粘りのある赤い実も、材として身近なもので、カマやナタなどの柄に使われていたという。

 

(2)小さな加工

 これまでに挙げてきた杉丸太のスウェーデントーチや、サンショウのすりこぎ、クロモジの楊枝などの他にも、いろいろとつくってみたものがある。

 真っ直ぐな枝3本を脚にして、革で座面をこしらえた、折りたたみ椅子をつくった。また、豆の種類だけ必要だからコーヒーメジャーをたくさん作った。ウワズミザクラ(あるいはシウリザクラ)、カキ、ミズナラで作った。ミズナラは西洋でジャパニーズオークと呼ばれ重宝された時期があっただけあって、美しかった。他もいいけどね。

(3)森林そのものの活動

 伐採やそのほかの目的で、管理されるようになった森林も、あるいは放置されている森林でも案外と、心地よい空間で、この空間そのものを活用することも一つの手である。わたしは任期中にイベントなどを実施することができずに終わってしまい、ただ自分だけで楽しんでいて、申し訳ない思いだ。

 以上、覚書(6)おしまい。
 生活についてなど書きそびれがあるので、まだ続きます。もう少しだけ思い出話にお付き合いいただければ幸いです。


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