狸よ、ごちそうさま

 タヌキが罠にかかったと連絡があった。止め刺しに同行させてもらった。ひとしきりの血生臭いことは割愛して、とにかくわたしは、その後脚の一本を分けてもらった。
 家にかえって、庭の雪をかき分けて、2列にレンガを積み、間で火を熾した。火がそだつ間にタヌキを水で洗い、塩を振った。ありがたいことに乾燥させておいたタイムとオレガノを見つけたので、適当にふりかけた。鉄網を見つけて、左右のレンガに渡して火の上に掛け、タヌキの後脚をのせた。

 欲ばって焼き芋も同時に焼こうと思ったために、火の勢いがいちどき衰えたが、タヌキが冬を越すために蓄えていた白い脂が溶けて滴ると火が勢いづいて、盛んに燃えはじめた。火の勢いに連なって脂の溶ける勢いもまして、とめどなく流れた。表面が煤に汚れてうまそうに焼けた。

 噛みちぎろうと食らいついたが、赤肉は硬く、表面の脂だけしか噛みとれなかった。しかし脂は甘くてうまい。これを炎で流れるままにしたことを悔やんだ。そして内部がまだ赤いことにも気がついて、再び火にかけた。そして、美味い脂がまたしても流れ出ることをどうしようもなく眺めることしかできずにいた。もっと弱い火でじっくりと焼く必要があるようだった。それよりもなにより、野良焼きにせずに鍋にでもして脂の旨味を楽しむべきだったのだ。

 赤身は硬く、筋肉の引き締まりを感じた。一生懸命に噛んであごが疲れた。
 骨の近くに残った肉をとろうとしたとき、両端で掴んで噛み付くと、肉が向こうへ逃げた。吐き気がした。腿の裏肉を齧ろうとして両手に力をかけすぎて関節が曲がり、噛みつきが空振りしただけだが、そのとき、いま食い終えようとしている脚が、生きていたころにも捕食者から逃れるために同じように関節を曲げて駆けていたのだと思って、無性に吐き気が湧いた。それ以上肉を食べられなくなった。

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