イノシシと下山して、バターナイフをつくった

尾根での邂逅

 足跡のない尾根を進んだ。尾根の西側は比較的緩やかな勾配で、杉造林地が広がっているが、東側は急峻で、ほとんど崖っぷちまで行かないと斜面が見えないほどだった。葉を落とした木々の先に茶色い犬が見えた。白い雪のなかに四つ足を踏ん張って、こちらにやかましく吠えたてた。アメだった。わたしたちが歩みをとめずに近づくと、ある地点で、わたしたちと認識したらしく、背負っていた敵意を下ろして、尻尾を振って近寄ってきた。そして、猟師のお父さんの愛撫に満足すると、回れ右をして、先導を務めるように木々間をぬって進んでいった。
 アメがとどまった地点の右側の崖から、猟師の息子さんが、雪焼けで夏より浅黒い肌をして、這いのぼってきた。右手に握ったツタの先はイノシシの口内に結ばれていた。右腕を前に押し上げるたびに、イノシシが斜面からすこしずつ姿をあらわした。そして、わたしたちの足元に完全に横たわった。口は閉じ、目と腹が開いていた。黒い目玉と、伽藍堂の腹部は赤いあばらが見えた。

バターナイフ

 ウワミズザクラでバターナイフを作ろうとおもい、今回はしっかりうつくしい造形に、ということで表面に型をなぞって、輪郭を記した。奏功してうつくしい造形があらわれた。

 さて、今度は厚みを削って、仕上げていくかと思っていると、猟師のお父さんが家に来て、息子さんが近くの山で2匹とったから引き上げる手伝いをしてくれと頼まれた。喜んで同行させてもらった。住吉町手前から山へ向かう林道を進んだ。2月も末というのに、足元に積もった雪は厚く、かんじきを履いた足でも歩みはおそくなった。30分ほど登ってから、新保と住吉をつなぐ山尾根を辿った。

帰路

 手ぶらの登りより、収穫を抱えての下山の方が早く済んだ。イノシシも、わたしも、生死にも関わりなく、雪の上を滑って、転げおちた。傾斜を迂回し蛇行する道を無視して、杉林の斜面を夢中になって滑っていると、気づくと林道の入り口にぶつかっていた。

バターナイフの続き

 柄のまるみをつくり、ナイフ部分に傾斜を出すように削り、ヤスリで磨いた。ありがたいくらいに綺麗に仕上がった。ウワミズザクラの木は削りよく、艶も美しい極めて優良な材だと改めて感じた。

皮剥ぎと解体

 翌日にイノシシの皮剥ぎと解体を行った。ことばであらわすことが疲労させる内容だから詳細は略す。肉を分けてもらった。すぐに燻製のために塩漬けにした。ちょうどスプーンとバターナイフをつくったときの削りくずが溜まっている。これを燻製チップにして、燻してみようと思う。

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